症例発表一覧
2010年『うつ病を伴った痙性斜頚の症例』福岡部会 上田 清一
〜はじめに〜
痙性斜頚とは 項頚部の諸筋が異常緊張、不随意的収縮により、本人の意思とは関係なく頭の位置が正常でなくなってしまう病気です。その原因は不明である。大脳皮質、錐体外路系神経中枢の器質的障害の疑われる症例、あるいは心因性因子の強く疑われる症例などがある。精神的緊張時に症状が悪化する傾向がある。姿勢異常は患者によって異なる。
好発年齢 |
30〜40代 |
---|---|
発症例 |
男性が若干多い。 |
原 因 |
解明されていないが、大脳の運動姿勢プログラムの異常と推定されている。過労、心理的ストレス、無理のある姿勢の継続、などがきっかけになる。 |
治療法 |
原因不明のため、下記の対症療法しかない。 ●自律訓練法によるリラックス ●ボトックスの注射 ●外科的治療 いずれにしても、難治性である。 ※一部ウィキぺディアより |
患 者 |
41歳 男性 C |
初 診 |
平成22年5月17日 |
現病歴 |
平成14年 でうつ病と診断 平成19年 痙性斜頚と診断 共に大学病院で診断。今も通院、加療し下記の投薬を続けている。 1.ワイパックス(抗不安薬・うつ病薬) 2.パキシル(うつ病薬) 3.ボトックス(3ヶ月に1回の筋弛緩剤の注射) 4.アーテン(振戦、筋固縮薬) |
望 診 |
痩せている。元気そうである。顔色は白色。 |
問 診 |
職業柄、人前で話さなければならないが、少し緊張すると、頭が右に回転する。両手で戻さないと、元の位置には戻らない。 食事は何でも食す。好き嫌いはあまりない。 お酒は以前良く飲んでいたが.、今はあまり飲まない。 |
家族歴 |
この病気になった者はいない。 |
腹 診 |
中脘を付近に抵抗有る。右の期門から天枢の下まで硬い瘀血を蝕知。 |
切 診 |
腎経は虚している。膀胱経の厥陰兪、心兪、膈兪付近に圧痛有り。曲泉、血海付近に圧痛有り。 また、本人が頭部を右に回転させると、脇下の心経の極泉付近に痛みが出現する。 |
脈 診 |
右寸口・左尺中は、沈で虚。左関上は、沈で弦で強い。 |
証決定 |
肺虚肝実証 |
治療方針 |
この患者は一時、極度のストレス下にあって、それが原因で気鬱となり、瘀血が出来たと考えられ、この病気が発症したものと思われる。 |
治 療 |
●本治法 尺沢・復溜の補法・金鍼の1寸3分の2番・接触鍼・行間・血海の瀉法・ステンレス鍼 ●本治法補助穴 中脘・天枢・関元・肝兪・胆兪・脾兪・三陰交・章門・期門・日月・ステンレス鍼・1寸3分の0番 ●標治法 背部の膀胱経には虚実に伴い補瀉をおこなった。 |
経 過 |
平成22年5月17日が初診 週2回の治療となりました。 5月5回、6月7回、7月9回、8月9回 9月、治療中である。 5月、6月 症状はあまり変化なし。 7月に入って症状が少しづつ改善する。発汗異常も良くなっている。また、心包経の労宮を用いると、極泉付近の痛みがほぼ消失。 9月に入って、斜頚の頻度は初診時の5割位。斜頚の程度は7割位回復してきた。 |
考 察 |
これは診断が適切で特に瘀血が出現している経絡の経穴を皆瀉法したことが良い結果をもたらしたものと考える。 経絡治療は証にしたがって、経絡の虚実に対して補瀉を行い、陰陽のバランスをとれば、病気は良い方に向かいます。 |
2009年『シェーグレン症候群の症例』福岡部会 上田 清一
〜はじめに〜
シェ-グレン症候群は特定疾患です。慢性唾液腺炎と乾燥性角膜炎を主徴とし、多彩な自己抗体や高ガンマグロブリン血症をきたす自己免疫疾患の一つである。他の膠原病の合併がない一次性と他の膠原病がある二次性に分けられる。
病理学的には唾液腺、涙腺では内腔狭窄が見られます。
疫学では、男女比は1:13.7 発症年齢は40〜60歳代である。現時点では10万人を超えていると考えられる。
乾燥症状・眼脂の増加・食事の際の水分摂取増加・唾液腺、涙腺の腫脹・関節痛をきたすことあり・甲状腺腫をきたすことあり・間質性肺炎を呈することあり・肝症状を呈することあり・胃液の分泌低下による胃炎を呈することあり・腎症状、底カリウム血症による四肢麻痺を呈することあり・皮膚症状、下肢に網状皮斑や紫斑を呈することあり
その他 レイノ-現象
※難病情報センタ- シェ-グレン症候群より
患 者 |
49歳 女性 B 平成19年11月 シェ-グレン症候群を発病 |
---|---|
初 診 |
平成20年8月23日 |
現病歴 |
平成20年6月 甲状腺腫を手術する。 眼脂5~6個出きて痛む。顔が乾燥する。水分が無いと食事が出来ない。朝こわばりが強く起きれない。全身が冷えて、手足が厥冷し麻痺する、細かい文字が書けない。朝夕胸が苦しい。頑固な便秘する(便秘薬が必要) 疲れると37度の発熱あり・頚、腰、膝に痛あり・眼がよく腫れる(眼の回りが赤くなる) |
家族暦 |
この病気に罹患した者はいない。 |
望 診 |
眼が腫れぼったい。元気そうである。 |
腹 診 |
胸は、膻中を中心に皮膚の表面は冷えててるが、ゆっくり圧していくと、熱感が有り痛む。臍上に圧痛あり、下腹部全体に軟弱である。 |
背 診 |
全体に皮膚が乾燥している。地肌は白いが、黒味がかってザラつていいる。 |
切 経 |
脾経・腎経・心包経・膀胱経が虚している痩せている。元気そうである。顔色は白色。 |
脈 診 |
全体脈は遅で虚。重按すると、右関上が虚、右尺中が虚。重按すると、左尺中が虚(緊脈)。 |
舌 診 |
表面が赤い。 |
証決定 |
腎虚脾虚寒証 |
治療方針 |
腎の津液が虚し、陽気も不足して、寒が発生した状態である。発熱するのは、陽気不足を補うためと思われる。腎の脈は緊脈である。臓腑の胃の気が不足していると考える。本当の実ではなく虚である。補法を用いる。舌が赤いのは心熱である。腎の陰気と心の陽気は陰陽の交流をしているが、腎虚のため、交流出来ずに、心に熱が多くなっている。 |
脈 診 |
右寸口・左尺中は、沈で虚。左関上は、沈で弦で強い。 |
証決定 |
肺虚肝実証 |
治療方針 |
この患者は一時、極度のストレス下にあって、それが原因で気鬱となり、瘀血が出来たと考えられ、この病気が発症したものと思われる。 |
治 療 |
●本治法 太白・大陵・太谿・復溜の補法・金鍼の1寸3分の2番・主に接触鍼 ●本治法補助穴 中脘・天枢・関元・三陰交・陰陵泉・脾兪・腎兪・曲沢・章門・京門・膻中 ●標治法 膀胱経や手足の関節痛に対して虚、実に伴い補、瀉を行った。 ステンレス鍼・1寸3分の0番・1寸3分の2番・胸部の知熱灸 |
経 過 |
平成20年8月23日に来院 これから週1回の来院となりました。 平成20年11月になるとパンが一口食えた。(粉っぽい物は食えない。) 鳥肉が食えた。(パサツク物は食えない。) 平成20年12月 眼脂(眼球の表面覆っている油が水分が少ないため、白い塊となって瞼に付着したもの、これが出きる。と眼が痛む。)が出来ても1個程である。 平成21年1月〜3月の寒い時期は月1回ほどの来院で、特に症状の変化無し。 平成21年4月 頻繁に注していた目薬も一日に1回でよい。 平成21年5月に入りまして 急速に症状が改善してきました。 通院しているクリニックの診断ては、涙も唾液も大分出ている。ご飯も一口程度でしたが、ほぼ普通の量食べられる、しかし、まだ水分は必要である。手足の麻痺も大分軽減している。疲れても、発熱することはほとんど無い。 |
考 察 |
この症例は腎虚の津液不足と陽気不足が基本に有り、脾・脾経・心・心包経に波及していると考える。そのため、腎虚の補法を中心に治療を進めてきた。 平成21年9月現在、月2回〜3回程度、まだ改善の見込み有りなので、治療は継続中である。 |
2008年『潰瘍性大腸炎(重度を軽度に導いた症例)』 福岡部会 上田 清一
〜はじめに〜
潰瘍性大腸炎は特定疾患で、大腸の粘膜にびらんや潰瘍ができる大腸の炎症性疾患です。
発症年齢のピ-クは男性は20〜24歳、女性は25〜29歳であるが、若年者から高齢者まで発症する。男女比は1:1。
病因は不明です。腸内細菌の関与か自己免疫反応の異常が考えられている。我が国では、77073人(平成14年度の報告)毎年5000人増加している。
主症状は、頻回の下痢・下血・痙攣性の腹痛・発熱・体重減少・貧血。
合併症として、皮膚病変・関節の痛み。
治療法 完治に導く内科的治療はないが、炎症を抑える薬物治療は存在する。炎症を抑える(ペンタサ)副腎皮質ステロイド剤・免疫抑制剤・その他
※難病情報センタ- 潰瘍性大腸炎 特定疾患情報より
患 者 |
43歳 女性 A |
---|---|
Oクリニックの診断 |
病名 潰瘍性大腸炎 全大腸炎型 重症 |
初 診 |
平成20年3月25日 |
現病歴 |
平成8年8月発病 入院その後毎年入退院を繰り返す。 平成17年頃から症状悪化。 平成19年11月と12月に、ある大病院で 血球成分除去療法 計10回行う。症状にさしたる変化は無い。 下痢1日に20回前後。水様便で排便痛がつらく涙がでる。下血を伴うため貧血。 平成19年下血がひどく呼吸困難をきたしたため、平成19年9月5日と6日に輸血を行う。 全身倦怠 立っていることが出来ず、昼間はホットカ-ペットの上で横になり、夜はトイレの前で布団を敷き休む。 下腹部痛・腰部痛・両下肢痛・体重減少(発病時70キロが来院時40キロ)全身に湿疹。 |
家族暦 |
家族に潰瘍性大腸炎を罹患した者はいない。 |
望 診 |
顔面蒼白。うつむき加減。眼に精気がない。いかにも辛そう。 |
問 診 |
何時も横になっている。両下肢が痛み。そして冷える。 |
望 診 |
痩せている。元気そうである。顔色は白色。 |
腹 診 |
胸冷えている。左右の臍傍力なく冷えている。下腹部全体に黒く軟弱で冷えている。 |
背 診 |
全体に色黒で湿疹が広がって、色艶もなく、鮫肌のようにガザガザとしている。 |
切 経 |
肝経・腎経・胆経・膀胱経が虚している。 |
脈 診 |
全体に、沈・ 細・虚。重按すると左関上が虚、左尺中が虚。重按すると右関上が濇。 |
証決定 |
肝虚寒証 |
治療方針 |
肝腎の虚である。 上焦にはわずかに熱が残っているが、この熱は寒に押し出された熱であるから、瀉法では取らない。 |
治 療 |
●本治法穴 太衝・太谿・蠡講・大鐘の補法・金鍼・1寸3分の2番・接触鍼 ●本治法補助穴 肝兪・腎兪・中脘・天枢・関元・豊隆・公孫 ●標治法 曲泉・陰谷の補法・両下肢の強い痛み出ている所特に胆経浅い鍼・熱くない灸・ボ-ル灸(テニスボール大の灸、中脘、臍、関元に移動しながら施灸)・肩背部の膀胱経の虚している部に補法の鍼・鍼はステンレス1寸3分の0番 |
経 過 |
3月25日〜4月30日 週3回の治療 3月25日〜3月31日 下痢1日20回前後。下血を伴う。下腹部の痛みは相変わらず伴うが、下半身の痛みは大分軽減した。 4月になると、下痢1日15回前後。食欲が少しでる。昼間は座った生活が出来る様になった。 4月6日 久しく食べなかったハンバ-グを食べた。 4月14日 40キロだった体重が41.2キロ。 4月後半 下血を伴わない。 5月〜7月 週2回の治療。 5月になると、下痢10回前後。 5月1日 中華料理を10年分思いっきり食べた。食後腹痛。 5月2日 体重42キロ。 今まで力の無い下腹部が、少しもり上がって温かくなりしっかりしてきた。今まで母親がしてくれていたス-パ-への買い物も一人で行き、身なりも綺麗になり、顔の化粧もする様になった。 5月9日 体重43.1キロ。 5月の後半になると、普通の生活が出来る。下痢が怖いので、出かけても近場である。 6月になると、下痢1日に6回〜8回。両下肢の痛み・排便痛・下腹部痛は大分軽減する。 今まで寒いと言っていたが、今は少しも寒くない。 6月27日体重46キロ。 7月になると、下痢1日5回前後。 7月2日 クリニックでの大腸検査日。 7月2日の潰瘍性大腸炎の検査の結果、生検・血液検査・カメラによる検査。軽度である。全大腸炎型で全域に水玉模様が点在しているが、白くなっている。(以前はえぐられた赤い斑点)出血部がない。 総蛋白6.9 栄養状態大変良い。(成人基準値6.4〜8.0㎗) 血色素量 11.2 良い。平成19年8月25日の検査では 5.2(女性基準値11〜14.6g/㎗) 検査後、下痢20回。下血をともなう。下腹部痛がつらく、全身に湿疹がでる。何れの症状も1週間後には治まる。 7月の後半 下痢4〜5回。泥状。 7月15日 体重48キロ。本人は太るのを心配する。 8月になると、下痢1日2〜5回。 8月6日 何年も無かった生理がはじまった。本人は大変喜ぶ。 |
考 察 |
今回の潰瘍性大腸炎は、上下の陰陽が交流していない厥陰病であろう。陽虚証で陽部に陽気だけが虚しているのでは無く、陰陽共に虚した状態であるため、全て補法を用いた。胃の気の充実させるため、臍の灸を用いたのが、良かったと思う。 完治しているわけではないが、普通の生活が出来るいうことは患者本人にとってはこの上ない喜びの様です。 納得出来る結果が得られるまで続けたいと思っています。 平成22年5月現在 完治しています。 |
2007年『糖尿病網膜剥離を手術に導いた症例』福岡部会 上田 清一
〜はじめに〜
痙性斜頚とは 項頚部の諸筋が異常緊張、不随意的収縮により、本人の意思とは関係なく頭の位置が正常でなくなってしまう病気です。その原因は不明である。大脳皮質、錐体外路系神経中枢の器質的障害の疑われる症例、あるいは心因性因子の強く疑われる症例などがある。精神的緊張時に症状が悪化する傾向がある。姿勢異常は患者によって異なる。
患 者 |
39歳 女性 会社員 |
---|---|
現病歴 |
糖尿病はK大学付属病院。眼科はK国立病院で治療中。 |
主訴 |
眼科で左眼球の網膜剥離の手術はK大学付属病院で行う。ところがHbA1cが8.6血糖値200で手術ができない。手術が出来るようにして欲しい。 |
家族歴 |
両親・兄、いづれも糖尿病。所見。 |
望 診 |
肥満。顔面の輪郭・目の周りが曖昧でうつむきかげんである。顔が全体に色黒。聞けば答えてくれるが、自分から話してはくれない。 |
問 診 |
食欲旺盛。減量ため歩いているがすぐ疲れる。車の運転は怖いのでしてない。肩から背中にかけて痛い。朝方痛くて目が覚める。 |
腹 診 |
全体に色艶がなく、張りもない。下腹部が特にブヨブヨして力がない。 |
背 診 |
肩背上部から下部にけて全体に皮膚が肥厚し浅黒い。 |
切 診 |
肝経・腎経が虚している。 |
脈 診 |
脈状は沈細弦虚。重按すると左関上が虚、左尺中が虚。軽按すると右関上が硬く実脈の様。 |
証決定 |
肝虚熱証 |
治療方針 |
肝腎虚で胃が実脈様を呈していると考える。 |
本治法 |
曲泉・陰谷・復溜・太衝の補法・足三里の寫法・金鍼1寸3分2番 |
標治法 |
「胃の気」を働かせるため、中晥・天枢・関元に入念に鍼を行った後、検脈を行った。肩背部は瀉法の鍼と知熱灸を行った。 ステンレス鍼 1寸3分2番 |
補助穴 |
肝兪・腎兪・胃兪 ステンレス鍼 1寸3分1番 |
経 過 |
●本治法 尺沢・復溜の補法・金鍼の1寸3分の2番・接触鍼・行間・血海の瀉法・ステンレス鍼 ●本治法補助穴 中脘・天枢・関元・肝兪・胆兪・脾兪・三陰交・章門・期門・日月・ステンレス鍼・1寸3分の0番 ●標治法 背部の膀胱経には虚実に伴い補瀉をおこなった。 |
経 過 |
5月1日 1回目 5月2日 2回目 5月6日 3回目 目がクリアになった。 5月8日 4回目 5月10日 5回目 k大病院で検査。左眼視野が拡大。 5月13日 6回目 5月15日 7回目 5月17日 8回目 5月19日 9回目 5月22日 10回目 子供の体育祭に出席したが、あまり疲れなくなった。車を自分で運転し、来院するようになった。 5月31日 14回目 30日病院で検査血糖値153 HbA1c7.6 6月7日 17回目 K大病院に手術のため入院。 6月9日 左眼手術をうける。 6月22日 18回目 9月15日 33回目 症状が落ち着いたので終了した。 その後、月数回不定期ではあるが、来院している。 |
考 察 |
最初話を聞いたとき、これは私の力を超えていると思い、上手くいくかどうかやってみないと分かりませんと話をして始めた。 もっと脈状脈診の理解が深まれば、病理・病症の理解も深かまるのではないかと思います。 |
参 考 |
HbA1c8.6でなぜ手術が出来ないかを専門医に問いました。 HbA1cは糖と結合したヘモクロビン(赤血球のタンパク)で最も血糖の変化に敏感に反応し4〜8週間前の血糖の状態も分かり、前日の食事内容によって糖の状態の変化にも影響されない診断法であり、HbA1c8.6は高い血糖値の状態で細胞の代謝が正常でないため、傷口がふさがらない(縫合不全の)リスクがあるためである。 |